真夏の夜の夢:「返さず奏法」で大儲けするビジネスモデル?
ピアノ演奏では「指の返し」というのがある。以下しばらくその説明をするので、ご存じの方は冗長ご容赦戴きたい。
右手でハ長調の音階を弾く際、親指から始めて中指まで使って「ドレミ」を弾く。次のファだが、薬指で弾くのではない。親指を他の指の下をくぐらせ、もう一度親指でファを弾く。すると最後の小指まで使って「ファソラシド」が弾けるのでぴったり1オクターブ弾ける。これが「指の返し」だ。
しかし初心者のうちは、指を返す際にぎくしゃくしてしまう。そのため「ドレミファソラシド」と滑らかには弾けず、大げさに言えば「ドレミ、ファソラシド」というように不揃いな弾き方になりがちだ。これを「粒が揃わない」と言う。
私はこれを解消する手段を開発した。それは指を返さないことだ。例えば両手を並べて使えば、音が10個まで指の返しをせずに弾ける。しかしこれは根本的な解決にはなっていない。音が11個以上連なった場合は対応できないからだ。
ではどうするかと言うと、既存の楽曲を捨て、指を返さないでも弾ける曲を作曲するのだ。あるいは既存の曲を、指を返さないでいいように編曲するという方法もある。
私はこれを★「返さず奏法」★と名付けた。そしてこれで世界を制覇し、大儲けをしようとたくらんだのだ。それはどうやって達成できるのか?
1.子供が好きそうな既存の曲を何曲か選び、それらを「返さず奏法」用に編曲する。
2.ピアノのおけいこに通っている子供たち、特に金持ちの子供たちを探す。
3.その子供たちにアメか何かを与えて接近する。
4.「返さず奏法」の曲の楽譜を与えて「この曲は易しく弾けるよ」と言う。
5.子供たちは帰宅して「返さず奏法」の曲をピアノで弾いてみる。易しく、粒が揃うことがわかる。
6.これを繰り返し、子供たちを「返さず奏法」のファンにしてしまう。
以上で第1ステップが達成される。ここからの展開が速い。
7.子供たちはピアノのレッスンに行っても、先生の与える曲が難しく、「返さず奏法」の曲のほうがいいと泣く。先生困る。
8.子供たちは自宅でも同様の態度を示し、親を困らせる。
9.先生は「返さず奏法」がどんなものか、子供たちから楽譜を借りて弾いてみる。先生その弾きやすさにうなる。
10.親も同様に「返さず奏法」の素晴らしさを納得する。
この返でもうジョヴァンニの深慮遠謀が見え隠れしてきたと思う。
11.先生と親は子供たちに「この楽譜は誰からもらったのか」と聞く。
12.子供たち「ジョヴァンニおじさん」と答える。
13.先生と親はジョヴァンニに連絡し、「返さず奏法」の楽譜を譲って欲しいと頼む。ジョヴァンニは「本当は1冊1万円だが、特別に無料で差し上げます」とか何とか恩着せがましく言って楽譜を進呈する。これは「損して得取れ」の戦略の一環である。
14.これを繰り返し、「返さず奏法」はだんだんと世間に浸透してゆく。
ここまで到達したら、後はよくある悪どいやり口で進める。
15.「返さず奏法」は楽譜のシェアの50%を超えるまでに普及する。当初は「返さず奏法のためのXXX」という曲名が付けられていたが逆転し、「返さず奏法」がデファクト・スタンダードになり、曲といえば「返さず奏法」で書かれた曲を意味するようになる。そして従来の奏法が逆に「レガシー奏法」と呼ばれるまでに変化する。
16.この段階でジョヴァンニ急に楽譜を有料化する。
17.先生と親は困るが、先生・親・子供のすべてが「返さず奏法」に染まってしまっているので後に戻れない。仕方なく楽譜を買う。
18.世界中で「返さず奏法」の楽譜が売れ、ジョヴァンニ大金持ちになる。宝くじに当たるよりもっと儲かる。
・・・という真夏の夜の夢を見た・・・
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