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2013年5月22日 (水)

美術アーカイブ:2000年(12) 菅井 汲展

「菅井 汲 展」(東京都現代美術館)の回想。

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「パリに生きた抽象画家『一億人からはみ出した日本人になりたい』」という副題が示すように個性あふれる抽象画家だ。そして私が最も敬愛する画家の一人でもある。

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菅井作品の魅力をどう説明したら良いだろうか?例えば同じく敬愛する彫刻家コンスタンティン・ブランクーシの場合は、都会的・理知的な抽象と土俗的・有機的なセンスという真逆の要因が一つに溶け合っているところがたまらない魅力となっている。これに対して菅井の場合は、数学的抽象の中に浮かび上がる詩情とでも表現すれば良いのだろうか?

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この展覧会は図録も充実しているが、配布されたリーフレットが年代順の記述で、実によくまとまっている。今回は受け売りどころか、そのリーフレットをそのままコピーして使わせて戴こうと思った。そこに若干ながら自分なりの感想を書き加えることによって、かろうじて自分の日記の面目を保ちたいと考えた。

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さっそく始めよう。リーフレットは第Ⅰ章から第Ⅵ章までの6つの時代区分を行っている。その前にまずは前置きから:

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そして第Ⅰ章「菅井からSUGAIへ」。

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解説にある「森の番人」。呪術的な感じがすると共に、シンメトリックな構成感も心地よい。

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同じく「池」。左端に描かれた白鳥のような具体的形状と、右上に描かれた赤い三角形のような抽象的形状とがよく溶け合っている。

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チラシ裏面には同時代の「犬、魚、鳥」も紹介されている。動物の形をデフォルメしてゆき、既にこの時代に半抽象の世界にまで到達しているのがうかがえる。

解説はされていないが、「塩造る家々」は目を引く作品だった。家や石垣などがはっきり描かれ、具象絵画なのだが、どこか奇妙な印象がある。心象風景といっても過言ではない世界が構築されている。その秘密はどこにあるのだろうか?歪められた遠近法もその要因の一つなのであろうか?

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もう一つ気になる絵画があった。「風景」である。味わい深い線刻はベン・ニコルソンの作品を想わせる。また、ほのかに漂う詩情はクレーの世界も思い起こさせる。美しい作品だ。

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この時代、もう一つ注目すべきは(半)立体作品だ。「無題」(モビール)は単に木片を寄せ集めて吊るしただけのように見えるが、美しい。作家の持つセンスがそうさせているのであろうか。

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次は第Ⅱ章「筆勢と形象」。

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解説にある「鬼」。文字をそのまま絵に展開したものだが、力強い作品だ。鬼というと普通は赤鬼を連想することが多いが、この作品の場合は背景が赤く塗られている。顔は逆に白い。このあたりの自由さ・奔放さがたまらない。

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もう一つ解説にあるのは「沖」。無彩色に近い地味な色調で統一された画面は暗いながらも潜在的な力を秘めている。

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解説にはないが、「小鬼」という立体作品が絵画の「鬼」に呼応して楽しい。こちらはユーモラスな鬼だ。菅井作品の多様さが表れている。

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次は第Ⅲ章「明快さと速度」

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解説にある「ハイウェイの朝」。これは菅井作品の特色をよく表している作品だ。幾何学的抽象構成の中に雲のような有機的形状が混ざり合って画面を構成している。そしてそれらがよく調和しているのが菅井の非凡なところだと思う。

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抽象構成は立体に展開してゆく。「二つの箱」は抽象的紋様の箱がキャスター付き支柱に載っているというユニークな作品だ。子供のような自由な発想―それも菅井の魅力の一つだと思う。

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そして第Ⅳ章「記号の定立と反復」

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解説にある「フェスティバル N.P.」。円などの幾何学的形状が遠近法を施したように前後に見える。チャールズ・デムスの「私は金の中に5という数字を見た」ほどではないが、ある種の動きも感じ取れる。

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同じく解説にある「ヴァリアシオン」。限定されたモチーフを展開させてゆく手法はクラシック音楽に例えるとソナタ形式における主題労作を想起させる。

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この時代の彫刻「男」も面白い。間違えると品格を損ねかねないテーマだが、「冷たい抽象」のたたずまいで芸術品としての姿を保っている。

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第Ⅴ章「<S>の彼方へ」。

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解説にある「カドミウム・レッド」は連作となっている。これは「3-4」。菅井の頭文字「S」が大手をふるって行進している。

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「S」は彫刻作品にも表れる。その名もずばり「S」。互いに融合し、支柱に添えられた2つのSの文字が存在感を示している。

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いよいよ最後の第Ⅵ章「ポスター、詩画集 ほか」。

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この「スキー船の夢」というポスターは面白い。スキーバスではなく船である。夢の中の話かと思ったら、制作された当時本当に運航していたことがわかった。

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「びわ湖 はり丸 毎日就航」の時代だったのだ。

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また「果てしなき探究」という連作リトグラフは洒落ている。菅井の別の側面を垣間見ることができる。

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一方、巨大な抽象作品を凝縮して並べ直すとこの「トランプ」という魅力あふれる作品に変身する。変幻自在な菅井芸術がここにある。

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菅井作品の魅力は尽きることがない。いい展覧会を観た。

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