« 女声合唱団 湘南の風 | トップページ | 横須賀:猿島 »

2012年11月 5日 (月)

古澤 潤 展

「古澤 潤 展」(ぎゃるり・じん、及び Chiyo’s:横浜)に行った。隣接する2つのギャラリーでの同時開催だった。

Img

作家が在廊で話ができて嬉しかった。そして古澤の話にはこれまで私が持っていた固定観念を打ち破ってくれるような芯の強い内容が含まれていた。

♪作品に込められたメッセージを読み取るということについて

展示作品の中に正方形が6つ、折り重なったり一列に並んだりした絵があった。抽象絵画を好む私は当然のことのように「素敵な抽象画だ」という感想を抱いた。しかしたまたま画廊に来ていた建築家のロバート・マンリーは、その絵に東日本大震災における原発に関連したメッセージを読み取っていた。するとその絵は純粋な抽象画ではなく、社会的メッセージを内包した作品という事になる。私にはそのメッセージは全く感じられなかった。

この場合、マンリーは鋭くメッセージを言い当て、私は鈍く見抜けなかった(苦笑)という事例が生まれたわけだ。それではマンリーが作家の意図を汲み取ったから「正しい鑑賞」をし、私のほうは「間違った鑑賞」をしたのであろうか?

♪鑑賞者の様々な解釈による多様化について

これに対して作家の古澤は、鑑賞者により作品の解釈が「多様化」し、私のようにメッセージを読み取れない鑑賞者がいるという事を作家側が「教えてもらった」から、これで良いという話をした。これは単に私を慰めたというだけの事ではないらしい。古澤はいったん作品が作られると、その作品はある程度「一人歩き」するので、解釈の多様化は避けられないと考えているらしい。またそれを肯定的に受け止めているようなのだ。

♪アートの創造における鑑賞者の役割について

古澤はアートの創造という事について、作家が作品の構想を練り、作品を仕上げた後においても、鑑賞者とのインターアクションが「クリエイション」の一部だとまで考えているらしい。つまり鑑賞者も作品の創造に(部分的ながら)関与しているという事になる。

上記は私の聴き間違え、あるいは解釈の間違えかもしれない。しかしもしこれが正しいなら、芸術生成過程において、古澤は鑑賞者に大きな役割を担わせてくれていることになる。これは鑑賞者としては嬉しいことだ。

♪作家の意図から逸脱した解釈の受容について

過日、私は横須賀でもっと規模の大きい古澤の個展を観た。会場には「シリーズ 死者の譜」と題された作品群が展示されていた。

_

これらの作品は、タイトルの通り物悲しい雰囲気を持っていた(少なくとも私はそう感じた)。しかし鑑賞者の中にはこれらの絵を「美しい」と評した人がいたということだ。では、その人には鑑賞眼が備わっていないのであろうか?

♪美しいものを観たいという心について

古澤は「死者の譜」を観て「美しい」と感じた鑑賞者についても「多様性」の一環として受容し、むしろ歓迎するとまで言っていた。それに付け加えて、人間は生来美しいものを観たいという欲求があるのだから、「死者の譜」のコーナーでたまたま眼にした作品が自分の眼に「美しい」と映ってもおかしくない、というような考えを述べていた。

なるほど、そのような考えをもって「死者の譜」を観ると、色や形の美しさに着目すれば「美しい」という印象になっても不思議ではないと思った。

♪クレー愛好について

私はパウル・クレーが大好きだ。今回の展覧会で「Chiyo‘s」に展示されていたいくつかの小品はクレーの絵によく似た雰囲気を持っていた。これを古澤に言ったら、自分はクレーの影響を受けていると率直に話してくれた。

私がクレーの熱狂的なファンだと言うと、古澤はクレーに対し鑑賞者は両極端の2つのタイプに分かれると言った:すなわち熱狂的ファンか、そうでないか。

♪クレーのある一面について

私は、クレーは女性などに意地悪なところが感じられると言った。すると古澤は、クレーの絵には怖いところがあると言った。私の感じた「意地悪さ」と古澤の言う「怖さ」とは異質のことだとは思うが、何らかの共通点があるのではないかと思った。しかし具体的にそれが何なのであるかは、わからない。

♪作品に「権威」がないということについて

古澤はクレーの作品には権威が感じられないと言った。私は意味がわからなかったので聞いたら、作品が高圧的に迫ってくることが無いという事だった。

例えばある画家が東日本大震災を題材として、悲惨な姿に成り果てた人物像を描いたとする。災害の恐ろしさは充分伝える力を持つ作品となるであろうが、メッセージが直截的すぎるので自分(古澤)としてはそういうやり方は避けたい、というのである。

クレーに戻ると、クレーの絵には押し付けがましいところがなく、平常な感じで描かれている。クレーほど日常に根差した作家はいないと古澤は言う。

話はまだまだ続いたが、興味深い内容に絞って採り上げた。古澤との会話は私のアート鑑賞において、示唆に富むものであった。良い時間を過ごした。

« 女声合唱団 湘南の風 | トップページ | 横須賀:猿島 »

コメント

古澤さんとのお話興味深く読ませていただきました。

原さん、いつもお世話になります。
新潟帰りでお疲れのところ、さっそくのコメントありがとうございました。古澤さんの話は深いですね。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/163862/47731902

この記事へのトラックバック一覧です: 古澤 潤 展:

« 女声合唱団 湘南の風 | トップページ | 横須賀:猿島 »

最近のトラックバック