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2010年3月21日 (日)

第29回 選抜奨励展

「第29回損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」(損保ジャパン東郷青児美術館)に行った。

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2006年の第25回以来、期待に胸をふくらませて毎年必ず足を運ぶ展覧会だ。そして毎回その期待通り楽しむことができるイベントでもある。何といっても展示作品の出来が素晴らしいのが嬉しい。若手・中堅作家が高水準でその腕を競うのだから当然かもしれないが。

1.抽象:平面
この展覧会にはなぜか抽象作品の展示が少ない。理由はわからないが、現在の流れが具象に傾いているのだろうか?抽象好みの私としては、完全抽象作品がもっとあればいいなと思う。
♪青木恵美子の「夏色」は柔らかい色彩のコンポジションという感じだ。選者評に「モーツアルトの美しい調べが聴こえてくるような」とあった。そのような見方もあるかもしれない。さわやかな作品だ。
♪小笠原依津好の「賛美・レクイエムⅢ」は本来好きなタイプの作品なのだが、展示された場所や隣接する他作品との相互影響のためか、インパクトが小さかった。この作品だけを大きな白い壁をバックに鑑賞したらもっと良いものに見えたかもしれない。
♪星 晃(ほしあきら)の「La Cascada」は西洋的な構成感と東洋的な余白の美が調和した好ましい作品だった。モノトーン主体の日本画(岩絵具使用)だが、黄色など微妙な色付けが施され、それがまた味わいを増している。
♪宮里友三の「無機世界への誘い」は英字新聞の切れ端をコラージュした作品だが、その貼り付けられた紙片の気の遠くなるような数に圧倒された。ただし大変な手間をかけただろうな、という労力だけの問題ではなく、全体構成など作者のセンスの良さがあってこのインパクトが生まれたのだと思った。

2.抽象:立体
♪鈴木律子の「大地’10」は木材が持つ流れるような自然の形を活かしつつ、それらの並置によるコンポジションが楽しめた。球体が一つ添えられて全体を引き締めていたが、仮にこの球が無かったとしても美しい作品として成立しそうな感じだ。
♪中村 隆の「思考No.8」はアンソニー・カロの台座の無い鋼鉄の彫刻作品を想わせる作品だった。最近F君の影響でこの種の屋外彫刻をよく観ているので今回特にインパクトは受けなかったのだが、初めて目にしたのなら強い印象を受けたことだろう。
♪野本喜石の「神秘なる時空」は逆ピラミッド型の石にナイフのような金属が突き刺さった刺激的な構成で面白かった。吉阪隆正の設計した八王子の大学セミナーハウスみたいだった。それにしてもこの作家の名前(喜石)は彫刻家によく似合っているなあ。
♪藤澤万里子の展示作品「次元の回廊」も悪くなかったが、図録に写真が載っていた受賞作品「静かな記憶08」のほうが面白そうだった。湾曲した鏡面に周囲の事物がたくさん映り込み、眼を動かすとそれらも変化するような感じだと推測する。こういうタイプの作品は好きだ。
♪ホンダグンジの「construction(Ⅱ)」は面白かった。単純な形態と色彩の立方体が角度を変えて積み上げられるとこんなに楽しい構成が生まれるのか。よくありそうな方法だが、結局は作者のセンスが光っているから秀作となるのだろう。
♪柳 早苗の「からだ」は石という無機的な素材が有機的な柔らかさを持ったかに見えた。丁寧な掘り込みの成果なのであろうか。

3.心象風景・シュール
♪朝倉隆文の「流出スル形ノ転移」は異端の神々(?)などが丹念に描かれ、それらの集合体が龍(?)を形成しているという力作だ。中腰になって細部を観ていたら疲れてしまった。もっと楽な姿勢でゆっくり鑑賞できたら良かった。
♪阿藤和子の「The day・・・」に目を奪われた。抽象と具象の組み合わせがここでは見事に成功していた。最初ブランコを揺らす少女が幽霊のように見えた。半透明に描かれていたからだ。ブランコに乗る女性というとレオノール・フィニーを思い出すが、抽象造形を配置したことで、もっと上品さが出ていたと思う。
♪大鷹 進の「パンドラの朱い実」はその細密性において朝倉隆文の作品に負けていない。題材は異なるがボス描く地獄のような光景だ。小さく描かれた一人一人の人物のなんと小さいことか。大宇宙の中にあっては、人間は所詮この程度の存在でしかないのか。図録に載っていた作者自身の言葉「人間って何なんだろう」という問いかけに対する一つの回答がこの作品なのか。
♪菊野キミヲの「黄昏」は静寂のなかに潜む不気味さが感じられる心象風景で見入ってしまった。一部マグリットばりの昼と夜の同居などが取り入れられていたと思うが、そのような小手先のアイデアだけではない。この作品には描写力というか、作者の実力の裏打ちがあるように思えた。素晴らしい。★今回の展覧会で最も強く印象付けられた作品だ。
♪武田采子(たけだあやこ)の「朱い実(‘09-2)」は一見トランプルイユの作品に見えたが、その方向ではなく、写実の中に不思議な感じを起こさせる作品だった。青、緑、茶が主体の画面の中央に作品名でもある朱い実を配置され、目立つ。しかし月並みさは感じられない。このあたりで作者の技量が表れているのであろうか。
♪四谷明子の「ZONE TIME」は誇張された透視図法で描かれた人気(ひとけ)のない室内が不安を掻き立てる。シンプルなたたずまいだが、奥深いものを含んでいる。観る角度を変えると描かれた壁が動くようで、それがまた不気味だ。

4.その他
♪井上和子の「さぁパーティーをはじめましょう」はワインの栓抜きを人間に見立て、それらを多数組み合わせることによりユーモラスな空間を作っていた。アイデア勝負の世界かもしれないが、確かな技術とセンスに裏打ちされているようで、それが作品を軽さから救っていたように思った。そして何より、殆どモノクロームで描かれているのに、色とりどりの服装で来場者がパーティーを楽しんでいる感じが出ているのが素晴らしかった。
♪川井雅樹の「TADAYOU MACHI Ⅰ」はコミカルなタイプの構成で楽しかった。作品中央に描かれた窓には足の裏を見せて下方へ落下してゆく人形が描かれているのだろうか。何となく河原温の初期作品を思いだした。
♪小西雅也の「歌う男」のアヴァンギャルド性も楽しい。色彩と形態はどこかギューちゃん(篠原有司男)の作品を想起させるものがあった。
♪水野 暁の「The River α+(共存のかたちについて/吾妻川)」はダム建設により水没する河岸の風景を二重写しのように表現したものだと思う。本来私は社会的メッセージ性の強い作品を好まないが、この作品のように技術的に優れ、真摯に描き込まれている作品を前にすると敬意を表さざるを得ない。

その他の作品も優れていたと思うが、私の趣味に合った作品だけを取り上げて感想を書いた。優劣とは関係がない。

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