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2008年3月17日 (月)

オペラ「流刑地にて」

2008年3月14日(金)
展覧会のハシゴの後、コンサートに行った。
カフカ原作、フィリップ・グラス作曲オペラ「流刑地にて」(新国立劇場・小劇場)だ。

オペラ嫌いのジョヴァンニがなぜオペラを聴きに行ったかというと、「関係者」から紹介があったからだ。不条理な内容で、現代曲で、編成も弦楽四重奏+ダブルベースというから、イタリアオペラとは全く別の物で、私でも楽しめるだろうと思った。

カフカは
有名な「変身」や「城」は読んだことがあったが「流刑地にて」は未読だった。そのため事前に原作を読んでおいた。カフカのほとんど全作品が不条理に満ちていることは知っていたから、「流刑地にて」の異様な雰囲気にはさほど違和感をおぼえなかった。

コンサートの前に、前提知識がない状態で全体をイメージしてみた。一種の思考実験だ。


♪流刑地は島だろう。すると海の波が寄せては引き、寄せては引き・・・と蕪村の俳句みたいに単調な波音が聞こえる環境ではないか。すると器楽アンサンブルはこの単調な波音をBGM的に流しているのかな。それならグラスのミニマルがちょうどいいな。登場する配役はシェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」のようなシュプレッヘン・ザンゲンで歌うのではないか。それならカフカの異様な感じが出そうだし・・・。

こんな感じだ。そしていざ蓋を開けてみたら、この推測は全く間違っていた。

フィリップ・グラスに関しては、何十年も前にクロノス・カルテットの演奏を収録した市販のカセットテープ持っていた。その中にグラスの「Company」が含まれていたが、どんな曲か忘れていたので、これを機会に聴き直してみた。すると全くの調性音楽なので、少し驚いた。もっと無調の曲をイメージしていたのだが。

そういう経緯で、演奏が始まっても「これは調性音楽だ」と頭ではわかっていた。でも体が無調を聴く体勢になっていたので、いきなり調性音楽が鳴って「不意打ち」を食らった。そして一種の眩暈(めまい)のような感じで、調性音楽がクラシック音楽ではなく歌謡曲のように聴こえてしまった。(しばらく経つと慣れてきたが。)

台本の解釈・使い方は入念に工夫されていると思った。例えば、悲しい場面で短調ではなく逆に長調が鳴るとか、荒っぽい内容の台詞を逆に滑らかなエスプレッシヴォで歌うとか、などだ。

またミニマルといっても、最初から最後まで同じことを繰り返すわけではなく、長調/短調、速い/遅い、普通のリズム/シンコペーション、強/弱、アルコ/ピチカートなどの要素があった。それらの順列組み合わせによる多くの部分で構成されていたので、結構変化に富んだ感じだった。「ミニマル=単調」というステレオタイプ的な発想は改めたほうが良さそうだ。

プレトークで「三和音中心」という解説があった。確かに三和音がほとんどのようだったが、中盤以降になると係留で半音のさわりがあったり(七、九の和音かな)、遠隔調に飛んだりと、結構工夫が凝らされていた。

舞台については、最初から最後まで、物語の中心である「処刑機械」を見せず、言葉の説明でイメージを構成させるという手法だったが、これは見事に成功したと思う。誰でもこの「機械」には興味を持つだろうから、それを逆手に取ったわけだ。

なお事前に読んだ原作と今回の台本を比べてみたら、かなり原作に忠実に書かれたものだとわかった。逆に言うと、カフカが後日舞台化されることを想定して書いたとすら思える。

また舞台中央の「振り子」は不条理な劇全体のありようを暗示し、充分な効果を挙げていたと思う。振り子は時々動き、時々静止していたが、その割り振りがうまかったと思う。

字幕スーパーは台詞だけでなく、時々演奏者と楽器の映像を見せていたが、あれは良かった。不思議と劇を盛り上げる効果があった。またメガホンを持った役者が時々穴から奈落に落ちるというのも、月並みですが面白かった。そして奈落から声が聞こえてくるのも、音の立体感を感じさせた。

クァルテット・エクセルシオの演奏はクセナキスと武満の作品で聴いたことがあり、何となく達者だなあという印象を持っていた。そして今回、わかりやすい調性音楽であらためて聴き、やはり達者だなあと思った。特に後半に出てくる速いパッセージ、例えば五連符のアルペッジォなどは、あの高速の流れの中でよくはまったな、と思った。

なお作曲者がアメリカ人なので仕方ないとは思うが、歌が英語というのは違和感があった。発音はドイツ訛りのように発していたようだが、それはせめてカフカに敬意を表するという意図的なものだったのだろうか?

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コメント

ご無沙汰しております。
ミニマルミュージックをビジュアライズしたら、あるいはこんな感じになるんじゃないかというモノを、先週渋谷で観てきました。
ミニマル関連ということでTBさせていただきます。
まずはこの映画の予告編をごらんあれ。
むむっ、このBGMは?!


yannさんご無沙汰です。調子は戻りましたか?頭痛はないですか?

草間彌生の作品は確かに音楽でいうとミニマルのようですね。水玉模様を音符にしたらそのまま音楽になります。それだけでなく、内包されたエネルギーが爆発した感がありますね。岡本太郎の爆発とはまた違った次元で。

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