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2008年3月16日 (日)

選抜奨励展

2008年3月14日(金)
展覧会梯子の2番目は「選抜奨励展」(損保ジャパン東郷青児美術館)だ。

Photo

今回の収穫は私の言葉で恐縮だが「既存のなかの新機軸」だ。技法・スタイルなどは既存のものと変わらないように見えるが、新奇性に富み新鮮な印象を残す作品だ。それぞれの作品の特質を抽出し、それを「しりとり方式」で記述してみることにした。

♪征矢富夫(そや とむお)の「Fox Face」はその代表的な例だ。

_fox_face

一見キュビズムの絵画に見える。住宅地の風景がいくつかの断片に刻まれ、大きさを伸縮させたり角度をずらしたりしながら再構築されている。そう説明してしまえばそれだけの事で新奇性は無い。しかし何か新鮮な感覚を持っている。文学に例えると「読後感が爽やか」といった感じだ。好きだなあこの作品。

既存のなかの新機軸と言えば、♪石村純(いしむらじゅん)の「異国にて」も同様だ。

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抑制された色調をまとい、半ば抽象化された音楽家たちの構成にリズム感がある。これはピカソの「三人の楽士」に着想とキュビズム的表現が似ている。しかし新しい個性というオーラを発散させている作品だ。

♪流麻二果(ながれまにか)の作品は20069月「POLA新鋭展」で観て以来だ。今回は「花冷え」が推薦されていた。

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流麻二果は何となく気になっていた作家だが、今回の「推薦理由」を大好きな佐野ぬいが書いていたので、いよいよ無視できない存在になった。確かに画面の上半分を占める青い四角は「佐野ぬいの青」に共通するものがある。今後の活躍が楽しみだ。

佐野ぬいの青と言えば、♪大洞定治(おおほら さだはる)の「鯉想1」は流の作品の隣に展示されていた。

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実は私は大洞作品のほうがより「佐野ぬいの青」に近いという印象を受けたのだ。流の色の強さと比べ、大洞の色は淡い。そのなかにほのかな詩情を漂わせている。素晴らしい抽象画だ。

青と言えば、♪村田一天(むらた いってん)の「覚醒のとき・2」もまた「青」の絵だ。

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これは一見SF小説の挿絵風だ。SF風仕立てというのは危険な行きかただと思う。ある種の偏見を持って眺めると、芸術作品としての品格を損なう可能性があるからだ。しかしこの作品は、そのような心配をしなくても独自の品位を保ち、魅力ある絵に仕上がっていると思う。その源は色彩の美しさとほぼ左右対称のリズム感あるれる構成感なのだろうか。

SF
的と言えば、♪青山正敏(あおやま まさとし)の「コスモエナジースコープ07Ⅱ」は立体の中で最も気に入った作品だ。

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図版コピーでは見えないが、台座に太陽系のような星の円軌道が描かれており、それを含めて宇宙の神秘というものを感じさせる。彩色も抑えられているが、全体的に楽しい感じが出ている。

宇宙と言えば、♪西嶋好美(にしじまよしみ)の「LUNATIC 2007 -WET MOON-」は文字通り宇宙を舞台としたSF的作品だ。

_lunatic_2007_wet_moonj_2

地球温暖化などの狂った現象に対する想いをカンバスにぶつけたような作品で、これも一つ間違えると品格を云々されかねない。メッセージ性の強い作品は、その社会性が強ければ強いほど、純粋芸術としての資質を疑われかねないからだ。しかし西嶋の作品もまたそんな心配を全く感じさせない力を有しているようだ。それは何か?シュアな描写と確固たる構成なのだろうか。

メッセージ性と言えば、♪小野郁代(おの いくよ)の「夕涼みの空模様」もエコ問題に一石と投じている。

Yuusuzumi

象の姿が重なりあい、空には鯉が泳いでいる。現実的にはあり得ない空間だが、不思議な暖かさと落ち着きがある。淡い色調とけばけばしさの無い描写によるものだろうか。主義主張をまくしたてるのではなく、穏やかな像と魚の姿を見せて、静かに語りかけるという筆致だ。「柔よく剛を制す」という感じの動物画だ。

動物と言えば、♪齋藤将(さいとう しょう)の「座標軸風景Ⅰ」も素晴らしい作品だ。

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画面に描かれているものは、灯台、2頭の鯨、折れた船の櫂(かい)、木材なのか島なのかわからない物体などだ。みな海につながっている。これらが空間に浮遊している。鯨の表情は穏やかだ。作者の言葉のなかにはメッセージ性は感じられない。ただ単に頭に浮かんだイメージを絵に定着させただけらしい。作品を描いた動機は何であれ、その表現力が素晴らしいと思った。

海へのつながりと言うと、♪本庄栄一(ほんじょう えいいち)の「潮:航海回想譜」も印象的な作品だった。

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並んだ船に重ねて描かれた茶色の物体は何かとよく見たら、女性のヌード(というか石膏像というか)だった。縦横に引かれた線刻により画面からキュビズム的な知的構成が浮かんでくるようで心地よい。色合いも渋くて好感が持てる。

渋い色の代表は、♪太田穣(おおた ゆたか)の「N40度を漂うものたち」だ。

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これは木の板を並べ、そこに彩色などを施した作品だ。内容うんぬんより、全体の構成、マチエールの感じ、渋い色調などの味わいが何とも素晴らしい。

マチエールといえば、♪堤一彦(つつみ かずひこ)の「雲になる樹」は大理石の素材感を大事にした作品だ。

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形状は派手ではないが、アルプのようなゆったりした曲線で温かみを感じる。その中に地味ではあるが、堅固な構成感も潜んでいそうだ。

以上の作品群を観て、先に上野で観た「VOCA 2008展」と本展を比べると、野球に例えて次のようにすみわけできそうな気がした。

VOCA展:ホームランか三振かという感じ。当たれば新奇性がありパワフルな作品と出会うことができる。外れると行っても何も面白くないという結果になる。
■選抜奨励展:平均打率が高い選手が揃っている。技法・スタイルは少々時代遅れの場合が多いが、毎回必ず数点は満足いく作品があり、大いに楽しめる。
来年以降もこの「両輪」を楽しんでゆきたいな。

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コメント

村田一天さんの作品色使いが素敵です小野さんの作品もユニークですね。。。

のんちゃん、コメントありがとうございました。個展楽しみです。さあ最終日に滑り込みできるかどうか、がんばります。

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