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2007年3月17日 (土)

選抜奨励展

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「第26回損保ジャパン美術財団 選抜奨励展」を観た。毎年開催されるシリーズものの展覧会の中で最も面白い企画のうちの一つだ。専門的なことには門外漢の自分が、あたかも審査員になったかのように「あれがいい・これがいい」と評論ごっこができるんだから。また様々なタイプの作品が並ぶのも興味深い。キュービズムやシュール風など自分好みのタイプもあえば、そうでない作品もある。しかし好みから外れたタイプの作品でも「これって結構面白いじゃん」と見直すこともあり、それがまた有意義だ。

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私の好みと審査結果とを対比させてみた。「私の評価」ではなく「私の好み」としたのは、私は評価できるだけの素養がないから、好き嫌いの評点にしたからだ。私の上位3点と審査結果の上位4点を並べると、カブっている作品は1点だけだった。あまり同じだと気味悪いし、あまりかけ離れていると自分のセンスを疑うので、この程度の重複度が心地よい。

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篠原征子の「ある風景」は最も気に入った作品だ。「叙情性のある構成」という感じだ。キュビズム風のコンポジションが楽しいし、かつ温かみを感じる。作家本人が「ブルーの冷たい印象を、温もりのある魅力的なブルーに・・・」と言っていることがまさに実践されている。コラージュを控えめに活用しているのも好感度を高めている。どこをとっても文句ない作品だ。

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青というとまずピカソの青の時代やイヴ・クラインの空のような青を思い出すが、他にもラウル・デュフィーの楽しい青、金山康喜の「青のリリシズム」がある。しかしそれらは単に彩色された青であって、塗りが軽い分、明るさ=温かみを出しやすいのではないか。これに比べて篠原作品はコラージュの上に厚塗りされた青であり、重厚はマチエール感を伴っている。それにもかかわらず温かみを出すというのだから、大変な工夫を強いられたのではないかと思う。

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谷貝文恵の「記憶」はその次に好ましく思った作品だ。渋い色で統一しているので気品があり、かつ構成感も味わうことができる。3人の女性が横に並んでいる姿が明らかだが、背景に溶け込み、抽象絵画として眺めることもできる。「私の中に在る日常的リアリズムを表現したい」と作者は言っている。自分自身の中にある日常とは、心象風景という言葉に置き換えられないだろうか。深読みしたくなる作品だ。

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木村富秋の「鳥唄(岬)」にも好感を持った。これが審査結果とベクトルが合った唯一の作品だ。抑制の効いた色彩と構成感が心地よい。

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鈴木雅明の「Untitled-Light 2006」は「意図的なピンボケ」の魅力を教えてくれた。独特のムードが醸し出されている。

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中谷晃の「卓上の楽園」は審査員から最高の評価を得た作品だが、私は趣味に合わないのであまりコメントできない。マチス風の(いい意味で)平面的構成がポイントなのだろうか?

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羽田浩司「羽の舞う日」は見た目グロテスクで好きになれなかった。私はシュールや心象風景は好きだが、このように「直截的に不気味」な作品にはアレルギーがある。強引に例えると、大好きなラブクラフトのホラー小説に気品を感じながら読んでいたのに、映画化されたらたちまちダサくなった、というような感じか。

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他にも印象に残る作品があった。「構成派」と勝手に呼んでしまうが、樺島玲子のタピスリー「幻想即興曲」が家の壁に飾ってあったら楽しいだろうな。♪推名久夫「Virtual Moratorium 06」は古めかしい写真のコラージュに郷愁を誘う力をみた。♪♪亀井三千代「蕾」は人体解剖図をベースとしているから不気味さがあるが、色と形の構成として観ると素晴らしいものがある。♪森田陽子「Threshold 90”」は古めかしい装いの中に現代的センスを織り交ぜた傑作だと思う。

「詩情派」もいるぞ。♪荒木恵子の「エピソード(Ⅵ)」は都会的なセンスで雑誌のイラストにぴったりだ。抑制された色づかいもいい。♪川田ゆう子の「A THOUSAND WINDS 千の風になって」は「うつろひ」というものを感じさせる佳作だと思う。単に流行(千の風)に乗った作品では決してないと思う。♪千葉和夫「ルイーナ」は不思議な感じに満ちている。描かれた地面と建物のどこにも超現実的なところが無いにもかかわらず、非現実的な詩情を漂わせている。これらが気になった作品だ。

「クラシック派」というのはどうだろう。♪卜部俊孝「洋酒と兜」は、その描写力に圧倒された。本物そっくりなのでトランプ・ルイユも簡単に描けそうな画家だ。♪加藤良造「山水行」の幽玄な世界は魅力だ。

それに対抗するのが「現代派」だ。♪徳永芳子「祈りの水(嘆きの壁より)-2」は独特の世界を形成しているようだった。♪平野良光「止場Ⅳ」は描写力がすごい。

「情念派」と名付けたくなるような作品に出会った。♪名和聡子「ディープシークレット」は赤い花弁を大きく描いたものだが、どこかジョージア・オキーフに通じるものを感じる。オキーフと異なる点は背景だ。オキーフが外光の明るさをバックに描いているのに対し、名和は背景に暗闇を置いている。黒地に赤い花がぼうっと浮き出る様は、どこかエロティックな衝動を感じさせるものがある。♪堀孝子「遠い記憶-私の庭-」も女の情感がにじみ出るような作品だ。♪友安一成「春潮」はモノクロームで男性の立場から「女の情念」を描き、なかなかの出来だ。この絵を見ながらカラオケで「天城越え」なんか歌われたら大変だろうな。(どういうふうに大変かはご想像にお任せします)。

さらに「SF派」もある。♪三浦かず子「誕生」は宇宙的規模の心象風景とでも呼びたくなるような作品だ。♪吉川幸昭「私のいきたいところ」もSF的なタッチが濃厚だ。色がとてもきれいだ。♪野村晴夫「或る風景《夢中》も宇宙空間に放り出された浮遊感を感じる。色がとても綺麗だった。

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「思い出させ派」(何じゃそれ?)というジャンルを強引に作ってみようか。♪「太陽を食らう」の長沢明は、昨年6月銀座のガレリア・グラフィカで個展を観た。独自の形態・色使いを持っている画家のように思えた。♪島袋洋「孵化」で描かれた水に浮かぶ女性は、先日観たビル・ヴィオラの「ミレニアムの五天使」とイメージがダブった。

こんな面白い展覧会が500円で観れるんだから、いいよなあ。

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