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2007年1月29日 (月)

Domani・明日展

Domani__1

「行きたい展覧会2007年その1」の一つ「Domani・明日展2007」(損保ジャパン東郷青児美術館)に行った。文化庁が提供する「芸術家在外研修(新進芸術家海外留学制度)」の派遣者による成果発表会のようなものだ。派遣先は西欧(アイルランド、イギリス、イタリア、オランダ、スペイン、ドイツ、ベルギー)、東欧(チェコ、ポーランド、ルーマニア)、アジア(タイ、中国)の12カ国だ。かつて画家の留学先として定番だったフランスや、アート流通で先端をゆく米国を含まないところがミソだ。一点集中ではなく、それぞれの地域で育っているアーティストの個性に触れながら、古い言葉だが自分を発見する場を提供するという趣旨なのだろう。今回の発表作品の中で自分なりにランキングをつけてみようと考えたが、差が僅少なので止めた。順位はつけず、印象深かった作品を取り上げ、その発するオーラの源泉を探ってみようと思った。< >は派遣先です。

_forest_i_1 

加藤正二郎<タイ>の「FOREST  I」は説明を読むまで日本画だとは思わなかった。厚塗りでキャンバスに凹凸があり、てっきり油絵だと思ったのだ。控えめで洗練された色彩を施された森に包み込まれるかのように、一頭の象が立っている。象の周囲は金箔が貼られたように金色に輝いており、この国では象は守護神として崇められているからそれを表現したのだろう。単に造形として観ても美しいし、宗教などのメッセージ性も備えた佳作だと思う。なお加藤の次の言葉には考えさせられてしまった。

「アジア諸国では、日本画は中国画の一種であるという捉え方が一般的です。日本画がローカル・アートからグローバル・アートへと変わってゆくためには、中国や欧米の絵画との相対的関係から脱し、自らをアジア絵画の系譜の先端に位置付けて、現代絵画の進むべき道を示すことが必要です。」(図録より)

上記の言葉に対しては、私などが注釈を付けるまでもないだろう。しっかりした見識と自分の使命というものを考える人だと思った。

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先日鎌倉で観た柄澤齊の木口木版画の余韻がまだ残っているなか、栗田政裕<イタリア>の作品に出会った。「異星人達との会話2005」は柄澤と同じ木口木版画に金属凸版を併用したものだ。精緻な画面はどことなく柄澤作品をほうふつとさせるものがある。柄澤と栗田を比較してみると面白いことがわかる。柄澤が木口木版画という古来の手法に安住する代わりに鮮烈なイマジネーションとシュアな彫りの技術で勝負しているのに対し、栗田は「技法」としての木口木版画に新たな可能性を見出すべく、技術開発に腐心しているらしい。木口木版と金属凸版との併用もその試みの一つだ。

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滝純一<ポーランド>の「葡萄物語(騎士)」は不思議な雰囲気を持っている。葡萄を入れた器の他に、甲冑、グラスなど骨董品的なオブジェが並べられているのだが、それらが載っている面が水平なのか垂直なのか良くわからない。赤茶けた煉瓦のような物が積まれ、格子状の線が縦横に見えるが、縦の線がすべて並行に置かれて消失点がない。遠近法を無視した描き方だ。それが幻想的な感じを醸し出しているのだろう。暗くて渋い色彩は中世の騎士が活躍した時代を表現しているかのようだ。一番下の真ん中に置かれた赤い布は戦で流された血の暗喩なのか。深みのある作品だと思った。

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西房浩二<チェコ>の「異国の便り」は作者自身の解説「画面の中に手を差し入れて、カードにふれたくなるような空間が描きたかった。」に示されたように、一種のトランプルイユ(だまし絵)だ。確かに作品の前に立つと、描かれたカードがまるで本物のように見える。写実の力量がある人なのだろう。横一列に並べられた石膏像、蝶の標本、果物を載せた皿、水さしなどの形状と色が見事なコンポジションを形成し、セザンヌのような構成を感じさせる。なかなかの作品だ。

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佐藤幸代<ルーマニア>の発表作品は3つあり、大きめの「東方」が中央に据えられ、その左右に「しじま」と「たまゆら」が配置され、三部作を構成していた。実は本物を観た時はあまり感心しなかったのだが、帰宅してカタログを開いたら写真のほうがインパクトを感じた。特に「たまゆら」は美しく幻想的なムードを持っており、展示会場でもっと注意深く観れば良かったと後悔した。色が渋くて好感を持ったのだが、実はアクリルの作品だとわかり驚いた。

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高橋洋<ポーランド>は和紙に木版などを施した作品を発表した。墨絵のようにモノクロームに近いが、よく見ると控えめに彩色されている。「雲暦」は雲のような形が格子状に並べられ、一つ一つの形状と色彩が微妙に異なっている。それらが柔らかいリズムを生じさせ、静止しているはずの画面に微かな動きが与えられる。地味ではあるが、奥深い作品だった。

_scenetf0105 

木下恵介<アイルランド>は四角い版画が横一列に並べられ、横長の帯を構成している作品を3点発表した。「Scece-Tf0105」は自宅近くに流れる多摩川の風景を主題とし、その変奏曲を綴って並べた作品だそうだ。5つの部分は具象・抽象の違いや色彩の違いによって変化付けられているが、多摩川という中心テーマにつかず離れず絡み合っているから全体として不思議な統一感がある。私個人的には、これら3作品は遠くから眺めたほうが良いと思うのだが、どうであろうか。

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平木美鶴<イギリス>は研修テーマの一つが「初期抽象画」だったそうだ。そのためだろうか、楽しい抽象画を見せてくれた。「うさぎの目」という表題だけで、楽しさがこみあげてくるようだ。アクリルと油彩を使い分けているらしいが、華やかな色彩はアクリルによるものだろう。作者は「サラサーテの曲と共に見て欲しい作品」と解説に書いている。「チゴイネルワイゼン」でも聴きながら観賞するといいのかな。でもどうしてサラサーテがうさぎの目に通じるんだろう?疑問に思うこと自体、詩心がない証拠なのだろうか・・・。

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押江千衣子<ベルギー>の作品は会場ではあまり印象に残らなかった。しかし佐藤幸代作品と同様、カタログや絵葉書で見たほうが良かった。特に「夕吹」はとても清楚な美しさ発散させていた。ドイツのハンブルグを訪れると町の真ん中にアルスター湖があり、そのほとりで描いた作品とのことだ。どうりで樹木の向こうがすっきりしているわけだ。

このような新人発掘がらみの展覧会は大変興味深い。評価が定まっておらず、参考文献も無いか、あっても少ないからいろいろ想像を膨らませることができる。来年もぜひ行きたい展覧会だ。

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