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2006年12月 2日 (土)

柄澤 齊展

Photo_44イメージの迷宮に棲む 柄澤 齊展」(神奈川県立近代美術館 鎌倉)に行った。幻想的なイマジネーションの豊かさと版画制作技術の高さで前評判の通り、いやそれ以上に素晴らしかった。ぜひアート好きの友人に勧めたいが、1224日の終了日が迫っている。みんな早く行って下さいね。満足度の高さはジョヴァンニが保障しますよ。

実はこの展覧会について、事前に二人の友人から聞かされていた。そのうちの一人は会社の昔の同僚だ。文章と挿絵の両方とも柄澤 齊の手になる小説「ロンド」の文庫本を持ってきて「面白いぞ」と教えてくれたのだ。この展覧会が鎌倉に先立ち栃木県立美術館で開催されていた頃のことだ。本を見たら興味をそそられ、「宇都宮まで観に行ってしまいそうだ」と言ったら彼も同感だと答えた。半分本気だったのだが、結果的には行かずに鎌倉での開催を待つことにした。

そしてもう一人は高校の友人で植物画家の松本千鶴さんだ。茅ヶ崎での彼女の個展を観に行った時、「すごーく上手な版画家の展覧会がある」と教えてくれたのだ。その時は既に展覧会のことは知っていたのだが、この展覧会の重要さを再認識することになった。

__47 冒頭にも書いた通り柄澤の素晴らしさは幻想的なイマジネーションの豊かさと版画制作技術の高さだと思う。例えば木口(こぐち)木版画の版画集「転身譚」の中から「ビュブリス」を観てみよう。ビュブリスはローマの詩人オウィディウスの変身物語に登場する悲劇のヒロインで、太陽神アポロンの孫娘だ。自分の流した多量の涙により泉に変身したという物語だが、その変身場面を描いた作品だ。この種の奇談は、描き手があまり達者でないと品格を疑われる作品になりがちだが、柄澤の腕はそんな心配をよそに完成度の高さを見せている。ビュブリスの頭部を逆さにするあたりに柄澤のアイデアが込められ、緻密な描線により洗練された作品に仕上がっている。そしてこれはほんの一つの例であり、他の多くの作品が同様の個性と品格を有しているのが驚きなのである。

__48 柄澤の冴えた技巧は肖像画でも発揮される。木口木版画による肖像画シリーズは対象の個性を突出させるために背景まで含めて様々な工夫が凝らされている。例えば肖像Ⅳ「アルチュール・ランボー」を取り上げてみよう。操り人形の取れた頭部が転がっているようで怪奇趣味をのぞかせている。しかし背後のカーテンや下に敷かれた布地の質感が見事で、全体として品性のある作品に昇華している。

__49 一方、水彩で描かれた「エリック・サティ」は全く別の世界を見せている。淡く彩られた斑点は飛び跳ねる音符を連想させ、今にもサティの音楽が聴こえてきそうだ。ドビュッシーに形式を重んじろと言われたら「梨の形をした小品」で回答を返したサティの洒脱さが、このニヤっと笑った顔を含め、よく現れているように思う。またこの作品は純粋に造形的な美しさという点においても優れた作品だと思う。右下の余白も効果的だし、サティの顔の緻密さと背景のぼかしとの対比もよい。

_polyphony 柄澤はオブジェも面白い。「Polyphony」(多声音楽)と題された作品は箱の中にネウマ譜を敷き、その上にぜんまい、貝殻などを散りばめた愛すべき作品だ。ポリフォニーが好きなジョヴァンニの感性にぴったりというわけだ。箱というとジョゼフ・コーネルを思い出すが、オブジェを箱の中に押し込めた点でコーネルの作品の雰囲気を持っている。モノクロームの重々しい版画作品の中にあって、明るくユーモラスな面を持った作品に出会うとほっと一息つける。

__50 墨を使った作品も美しい「虚舟圖」は墨だけでなくアクリルや金箔を併用しているので墨絵とは呼べないが、墨の持つ伝統的な美しさを有し、そのうえに抽象画の楽しさを併せ持たせた優雅な作品だ。本来のジョヴァンニの好みからすると、この展覧会で最も波長が合った作品ということになる。いずれにしても柄澤の多面性を示している作品だ。

柄澤作品だけでお腹いっぱいになり、しかも今日は平塚の「内田あぐり展」から梯子だったので、別館で同時開催していた「ヨーロッパ版画との出会い」やお決まりコースの古本屋を泣く泣くパスして帰った。いま、充実感にひたりながらこのブログを書き終えた。

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コメント

私も先週の日曜に見てきました。柄澤さんの技量はすごいですね。木口木版だけでなく、水彩画、オブジェは、その繊細さに、感銘を受けました。深遠なる柄澤ワールドですね。

自由なランナーさんコメントありがとうございました。仙台から鎌倉まで来られたのでしょうか。遠かったでしょう。でも得られたものがあったらしいので良かったです。

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 鎌倉の神奈川県立近代美術館で開催されている「イメージの迷宮に棲む 柄澤齊展」は、そのタイトル通り、様々なイメージを喚起させてくれる展覧会です。木口木版(こぐちもくはん)の作り手としての地位を確立しいる柄澤齊(からさわひとし)さん(1950年生まれ)の作品は、初めて拝見しました。版画といえば、凹版の銅版画であるエッジング、エンクレービング、平版のリトグラフの作品はなじみがありますが、木口木版画はあまりみる機会がありません。木口木版は、木の横断面を使った版画です。  展示室には、木口木版、コラージュ... [続きを読む]

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