大竹伸朗 全景
「大竹伸朗 全景」(東京都現代美術館)に行った。若い人で込み合うだろうと予測し、開館(11:00)早々乗り込んだので比較的空いており、落ち着いて観賞できた。大竹が小学生の頃から近年までの2,000点にものぼる作品が一堂に会しただけあって見ごたえがあり、また得るものも多かった。実は自分の好みに合う作品は少なかったのだが、大竹伸朗という一人のアーティストの成長過程をじっくり観ることができたのが一番の収穫だったのだ。
いきがっているようで恥ずかしいが、私は子供の頃絵が上手で母校の小学校の玄関に水彩画が飾られたんだ。本当だよ。そして将来はインテリア・デザイナーになりたいと思っていた。そんなことを想い出しながら展示作品を観てゆくと、大竹の小学校時代の絵は私と大差ないレベルだということもわかった。それが何十年経過したら、なぜか大竹少年は「大竹伸朗・全景」に成長し、私は「ジョヴァンニ・隙あり」になってしまった。この差はどうして生じたのだろう? 何が大竹を飛躍させたんだろう? 誰が大竹を鼓舞したんだろう? 何を大竹は考えたんだろう? ・・・。
私の中ではこの疑問に対する回答が出来あがっている。それは「創作したいという意欲」だ。一言に集約すると、私はこれだと思う。今回の膨大な作品数に眩惑された面もあるかもしれないが、それよりまず大竹が「描きたい、作りたい、造りたい・・・」と必死になって作品を生み出していった、その意欲が大竹を急成長させた原動力なのだろうと、そう真剣に考えたのだ。
大竹伸朗は前から知っていた。5年前(2001年)に開催された「大竹伸朗展 デジタルワークス 鼠景」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト)を観たのだ。この展示会では多様な大竹の活動のごく一部「鼠景」に焦点を当てたものだった。そのため私は大竹に対し「映像をデジタル処理により変化させて構成するアーティスト」という狭い捉え方をしていた。
大竹伸朗とのめぐりあいはまだある。ピアニストの妻が買った武満徹作曲「SONGS」の楽譜集だ。これは大竹伸朗とのコラボレーションで、表紙をはじめ随所に大竹の絵が挿入されている。それらの絵は実に多様なスタイルを示し、大竹の創作領域の拡がりをそのまま反映している。これを見て、大竹は単なるデジタル処理アーティストではないなとわかった。
今回、大竹と武満徹との接点を示すチャーミングな作品が展示されていた。マッチ箱の裏に描かれた武満徹とラッセル・ミルズの似顔絵だ。これは先日観た「武満徹|Visions in Time」展に出展されていたのと同じものだ。このような横の拡がりを実感できるのは実に楽しい。
この例だけでなく全体を通じて思ったのだが、大竹の描くペン画は味があって素敵だ。その背後にはデッサンもきちんとしているように思った。今回の展示では学生時代の作品にペン画が集中していたが、その他の時期でも絵の具などで色彩を施された作品のベースにペン画が置かれていることも多かった。
今回の展覧会に出展された作品の中で、最も美しいと感動したのは「網膜」シリーズだ。破棄されたポラロイド・フィルムを拾い上げ、その画像に新たな息吹を与えた作品群だそうだが、形態も色彩もみな美しい。その作品群の中で一番気に入ったのは、皮肉にも「いやな思い出」という作品だった。私にはいい思い出になったのに。
また幼少の頃から始めていたコラージュにも興味深い作品が多かった。膨大なコラージュ作品の中で異彩を放っていたのは、彩色された後で粉々に砕かれた板切れを並べた作品だ。抽象的でオブジェと呼びたくなる。その1つが具象絵画の中に配置されており、鮮やかに輝いていた。
コラージュで思い出したが「ティーチング・オブ・イスラム」というインスタレーション的要素を感じさせる立体作品も面白かった。コーランとおぼしき文章が彫られたパネルを中心に、剣・骨・鳥の羽などのオブジェが配置されている。音声も出されており、規模は小さいが一種独特の総合芸術といえる。
エッチング作品にも魅力あるものが多かった。薄茶色など地味な色調のものが多く、味のある線が縦横に走っている。本の挿絵などに最適だと思った。
まだまだ多くのことが頭の中を駆け巡っているが、文章に書けないような断片的な印象なので省略する。本当に充実した展覧会だった。
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金曜日に行く予定だった、「全景」を、今日、何とか滑り込んできた。
がつ〜〜んとやられててしまった。こんなアーティストが日本にいたこと、今も精力的に創作活動を続けていること、あまりにも圧倒的な量とパワーに小さなこだわりに生きているのがばかばかしくなるのだった。... [続きを読む]


大竹伸朗は、なかなかすごいクリエーターと思いながら、期間ぎりぎりでやっと行ってきました。すごいパワーです。かたちにしていくバイタリティには感動してしまいます。それと、あらゆるものに対して上下感のないものの見方が好きです。初めからそんな概念はなく、「俺の網膜に映ったもの、それ以下でもそれ以上でもない」という認識の平衡感覚がすばらしい。そこも武満に通じているし。
投稿: ハシビロコウ | 2006年12月21日 (木) 15時43分
ハシビロコウさん、コメントありがとうございました。大竹伸朗のパワーを共有できて嬉しいです。クランチ・オン・クラシックの推進力にして下さい。ジャンルは異なってもエネルギーやオーラは共通だと思っていますから。
投稿: ジョヴァンニ | 2006年12月22日 (金) 14時10分
はじめまして。
あべまつと申します。
自由なランナーさんのところから飛んできました。
去年会期末ギリギリに見た、大竹伸朗の幻像が年が明けてからもまだ、ギンギラギンに残っています。2000点もの展示はそりゃないだろうと思いながらも、彼の網膜に写った歴史を汗臭い油が染みたようなスクラップが証明してくれているようでした。TBさせて頂きます。
投稿: あべまつ | 2007年1月 8日 (月) 22時09分
あべまつさん、コメントとTBありがとうございました。私もまだ「全景」の興奮が完全には冷めていません。圧倒的な力でねじ伏せられたので、そう簡単には起き上がれないのです。あべまつさんのブログも今後拝見しに行きます。
投稿: ジョヴァンニ・スキアリ | 2007年1月 8日 (月) 22時29分