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2006年6月 5日 (月)

別宮貞雄 室内楽作品の夕べⅡ

Photo_25別宮貞雄 室内楽作品の夕べⅡ」(東京文化会館小ホール)へ行った。最近展覧会へは毎週のように行くが、コンサートにはほとんど行くことがない。今回は現代作曲家の作品ということもあり、タダ券というのもあったので例外的に足を運んだ。妻が子供のころ別宮作品(子供のための現代ピアノ曲集の1曲)のレコーディングをした縁で、招待券をもらえたのだ。このホールは昔から全然変わってないな。じゃばらの形をしたオブジェのような反響版が何十年も音を跳ね返し続けている。いかにも現代曲に相応しいホールだ。しかも作曲者本人が84歳という高齢ではあるが、元気で会場に来られているのも頼もしい。ご本尊が鎮座されていれば、演奏者も作曲者の意図からそう外れた演奏はできないだろう。またプログラムの大半が別宮貞雄自身により書かれたので、フィルターをかまさない真の姿が見られるのも嬉しい。他人が言葉を飾って書く文章には、どこか真実から離れた内容になってしまうからだ。それにしても会場はほぼ満員。このような地味なコンサートによくこんなに多くの人が来るものだと感心してしまった。

ピアノのためのソナチネ」は別宮が「私の作品の中で一番、第2次大戦後の新古典的作風である」と書いている。またダリウス・ミョーの影響についても言及している。確かに七、九、十一の和音が連続したような硬質な響きは新古典派を彷彿とさせる。一方ミョーの影響という点については本人が言っているのだから確かなのだろうが、多調の響きがあまり感じられず疑問が残った。ミョー=多調という先入観があるが、それ以外の内容についてなのであろうか。演奏は、前回同様コンサート全体を仕切る花岡千春。音構成を「見て下さい」と言わんばかりの明快な弾き方は良かったと思う。

アルトサクソフォーンとピアノのための「街の歌」は別宮によると「もとはハーモニカのための作」だそうだ。別宮=ベートーヴェンという方程式からほど遠いブルースっぽい作品で驚いた。武満がフォークソングを作るようなものなのか。ある意味で別宮の拡がりを感じさせる曲であったが、好きにはなれなかった。ただしサクソフォンの雲井雅人の腕前はすごいものがあると認めた。特に冒頭のロングトーンが美しい響きだった。ピアノの花岡はサックスを盛り立てるように抑制が効いた演奏で好感が持てた。

ピアノ連弾のための「北国の祭」は日本民謡を素材に用いているので、民謡を好まない私には聴きづらい作品だった。ただし作曲技法の面からみると、よく構成され変化に富んだ曲に仕上がっていると思った。花岡の相方は作曲家でもある尾高惇忠。低音部を受け持った尾高は流石に作曲家らしく「ここはこっちがメロディーですよ」とか「ほらここはかけあいが面白いでしょ?」などと説明してくれるような演奏ぶりだった。花岡との相性もいいらしい。尾高が張り切ったせいだろうか低音部が元気いっぱいで若干音量バランスが気になったが、小さな点である。なお尾高は芸大で池内友次郎、矢代秋雄、三善晃というそうそうたるメンバーに学び、パリ音楽院では私が好きなアンリ・デュティーユに師事したそうだ。弦楽四重奏曲も作っているので楽譜を見てみたい。

オーボエとピアノのためのソナチネ「薄明」は、今回のコンサートで最も気に入った作品だ。別宮自身の解説では「ラレソドファシミラレソで始まり、全曲この音列を主題とする」とのことだ。「こんな作品は他にない」とも。確かにこのような音列に徹した作品は見たことがない。五度の跳躍とそれを埋めるかのような音階的素材が交錯し、構成の妙味を感じさせる。調性感も比較的強くなじみやすい。オーボエの井上圭子はピアノの花岡とのかけあいを大切に、抑制の効いた演奏だった。音量もよく制御されており、どぎついところが全くない。全編メゾピアノからメゾフォルテの間で落ち着かせ、なおかつ変化をつけたという感じだ。

「叙情小曲集」(室生犀星作詞)も素晴らしい作品だ。Ⅰ 白魚、Ⅱ 京都にて、Ⅲ 蛇、Ⅳ ふるさと、Ⅴ かもめ、Ⅵ 海濱獨唱の6曲から成る。別宮は「私の作った歌曲の中で、歌われることが比較的少ない。チャーミングな歌だと思うのに、残念だ。」と書いているが、本当にそう思う。歌もピアノも調性感が希薄で、モダニズムが全体を覆っている。師匠のミョーとメシアンのどちらにも似ていないが、フランス近代の響きだ。オペラアリアのようなどぎつさが無く、緊張感の中に安らぎも同居している。1曲1曲が短く、少々物足りない感はあったな。その点ではフォーレの歌曲みたいだ。なかでは「Ⅰ 白魚」が最も好ましい作品に思えた。ソプラノの小泉恵子はこの近代様式の曲を、余裕を持ってこなしており、良い演奏だと思った。ピアノとの和声の組み立てを聴いた限りでは音程が良かったようだ。

最後に別宮大先生がステージに呼ばれると拍手喝采。この年で新作のオペラに取り組んでいるそうだ。「来年早々、出来立てのホヤホヤをお聴かせします」と言われ、来場者から受けていた。

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